大崩山(同じ失敗を二度と繰り返さないために)
2013年10月19日(土)ウォークキャンプ愛好家10年ぶりの大崩山登山は、川の増水のため祝子川を渡り切れず断念となった。
車で片道5時間もかけて登山口まで行って、登山開始40分で引き返すという痛い経験を二度と繰り返さないよう、なぜ渡れなかったのかを考察しその対策を考えてみた。
祝子川(ほうりがわ)とは?
大崩山を登るにあたって、最初の難所となる場所。祝子川を横断して湧塚尾根コースに入る。この川を渡り切った向こう側から大崩山尾根となることから、まさに大崩山入口のゲート的な役割を果たしている。
かつてはこのような丸太の橋がかかっていた。
しかしこの橋は台風で流されて、
このような立派な金属の橋ができ、
やっぱりその橋も台風で流されて、
また翌年金属の橋をかけたが、わずか設置2ヵ月で、やっぱり台風で流されるという残念な橋である。
橋のない現在は岩を飛び移るようにして川を渡らなければならない。
平常時で増水してない時は、こんな感じで渡る。(水位40cm)
①の岩が、みんなが最後に上がった岩(これ以降行けなかった岩)
②の岩が、ツルちゃんがジャンプしていったんは飛び移ったが危ないということで断念した斜めの茶色い岩。
その続き
これは、渡りきった向こう側から見たところ。
写真で分かるように、平常時には、①の岩の下に砂利の足場があり、後は、小さな石を飛ぶように渡れば簡単に対岸に行くことができる。
これが増水時(水位91cm)ではこうなる↓
はっきり言って大きな岩以外ほとんど顔を出していない。
大崩山に参加した7人が見たら、こんなに違うのか!?と、驚いたと思う。
しかしここで少し疑問が残る。
たったあれだけの雨でこんなに水位が変わるものなのか?
そこで、祝子川に設置されてある、水位計のデータを確認してみた。
(参考:宮崎県ホームページ)
部室を出発した10月18日(金)は、16時まで雨が降っていなかった。この時点での水位は79cm。その後、雨が降り出し、私たちが祝子川にたどりついた8時の時点で、降り始めからの累積雨量は30mmで水位91cm。つまり夜の雨で水位は12cm上昇した。
では、たった12cmの水位上昇であの川は渡れなくなるものだろうか?
あったあれだけの雨のせいで大崩山は登れなかったのだろうか?
実はそうではない。実は原因はもっと前にある。
大崩山付近の温泉を管理されている方が記入されているブログで興味深い記事を発見した。
この方によると、水位80cm以上で注意または危険とある。
水位100cm以上だと危険と言い切っている。
これをふまえてもう一度さっきの水位表を見てみると
なんと、雨が降る前の時点ですでに水位が79cmある。
実はこれは、10月8日に九州北部を襲った季節外れの台風の余波なのである。
つまりあの日、雨がふらなくても、そもそもあの川を渡れなかった可能性は高い。
ここで、10月の祝子川の水位を下記にまとめみた。
※クリックで拡大
お気づきだろうか?
そう。実は、我々が行く2週間前から既に水位は常に80cmを超えていたのだ。
10月8日の台風による大雨以来ずっと80cm超の高い水位が続いていたのだ。
つまり、ウォークキャンプの大崩山に登れなかった運命は、前日と当日の雨によるものではなく、10月8日の時点で既に決まっていたのだ。
前日と当日の雨はあくまでとどめを刺されたにすぎない。
要は、あの日雨が降ってなくても渡れなかった可能性が高いというこうとである。
目安は80cmくらいからとあるが、では実際どのくらいの水位で渡渉不可になるか?
検索エンジンを使い、2013年に大崩山に登山したホームページやブログの記事を検索し、その時の水位と渡渉状況を下記にまとめた。
水位渡渉コメント
31cm○-
32cm○-
33cm○-
33cm○-
33cm○-
34cm○-
34cm○-
35cm○-
37cm○-
37cm○-
38cm○-
39cm○-
39cm○-
39cm○-
39cm○-
39cm○-
41cm○-
41cm○-
41cm○-
41cm○-
42cm○-
47cm○-
49cm○-
60cm○くつをぬいで渡りました
60cm○苦戦しました
63cm○水量は多いが渡れました
68cm○-
75cm×単独登山。行けそうでしたが失敗をおそれて辞めました
76cm×-
81cm○-
84cm○ツルちゃんが飛んだ岩を使いました。
84cm○苦戦しました
89cm○-
89cm○右往左往しながら渡りました
89cm×-
90cm×-
91cm×ウォークキャンプ愛好会
このデータによると、水位60cmくらいから躊躇する書き込みが見られ、最初に渡渉失敗したのが水位75cm。
水位80cm以上の水位だと約半分のパーティーが断念を余儀なくされている。
また渡渉に成功した人たちもそのコメントからかなりの難易度だったことが伺える。
では、運悪く水位80cm超えとなるのはどのくらいの頻度なのだろうか?
2013年2月~2013年10月の水位データーを収集し、以下のグラフにまとめた。
続いて月別データをまとめた
3月
ずっと水位が安定している。残雪さえなければ大崩山にはベストな時期か?
4月
天気が周期的に変わる4月だが水量はそこそこ安定している。
5月
おそらく一番登山者が多い時期。後半は梅雨の影響を受ける。
7月
前半は梅雨の水量をひきずる。今度は暑くて登れない心配が出てくる。
8月
暑くて登れない。台風さえ来なければ水位はそこそこ安定。
9月
かなり登山に適した環境になってくる。水位も安定している。
10月
台風さえ来なければ・・台風のせいで異常な高水位状態が継続している。
年間データを比較すると、通常一度大雨が降り水位が上がると4~5日程度で回復している
10月の高水位が12日間も継続してるのはかなり異常な状態だったとも言える。
これは、10月は気温が低いため、夏に比べて森が吸収する水の量が減ったことと、蒸発量が少ないことが関係しているのではないかと考えられる。
ひらべったく言えば、10月に台風が来てしまうと、その後いくら晴れても2~3週間は渡渉が厳しくなるということを示している。台風の力というのはそのくらい強いということなのだろう。
以上を踏まえたうえで、安全に祝子川を渡るにはどのようにすればいいかを以下にまとめた。
安全に祝子川を渡るには?
①祝子川温泉の管理人大崩山さんの「Facebook」をチェックする。
https://www.facebook.com/mt.ookue
やはり、現地の声が一番参考になる。
今日は、○組登山をしたようですが、雨で○組引き返しましたなどの細かい情報がわかる。
Facebookを読むと、かなり親切な人っぽいので、どうしてもわからないことがあれば、Facebookの管理人である祝子川温泉の伊藤さんに電話して聞いてみるのもよい。
祝子川温泉:(0982)23-3080
②川の水位をインターネットでチェックする
宮崎県河川情報
http://kasen.pref.miyazaki.jp/
このページの、上祝子の水位計をチェックする
※上祝子の水位計はここをクリック
出発1週間前くらいからチェックを続けて危険水位である80cmを超えそうにないかを確認しておく。
また、出発当日の朝もチェックしておくことが大切である。
③1時間の雨量が5mmを超えるときは登らない
本当は、雨だと登らないで下さいと書きたいところではあるが難しい。
5mmの根拠は、1年分の水位と雨量をチェックした末の結論である。
累積雨量との関係もあるので自信を持っては言えない。
ただ5mmを超えると増水するスピードが異常に早い気がするので危険だということは言える。
ちなみに5mmの雨とは、傘なしでは外に出たくないような雨、靴が雨で濡れてしまうような雨、1限を休講したくなるような雨と思っていただくとよい。
以上、3点をまとめてみたが、相手は自然なので、いつでも同じことが言えるとは限らない。
車ほどの大きさの石でも、台風や大雨で容易に流されたり裏返ったりして立体パズルのように毎回配置が変わる。
運が悪ければ水位とは関係なく、石の配置次第で行けたり行けなかったりすることもあるのかもしれない。
また、ここを無事通過したとしても、大崩山への1つ目のゲートが開いたにすぎない。
本当の難所は、この先にあり、そこの状況次第ではいつでも引き返さなければならないようなことがあるのかもしれない。
2013.10.24 松沼氏